持続可能な漁業ってなに?世界と日本の海の現状
mymizu Blog Series「エコへの第一歩 with Kanae」
当シリーズは、mymizuメンバーの長谷川佳苗と一緒に環境問題、そして私たちがすぐにでもできるエコ活動について学び、新しいライフスタイルへの第一歩になることを目標としています!
日本は美しく豊かな海に恵まれた島国です。
その海の恵みである魚や貝は私たちにとって大切な水産資源であるとともに海の生態系を構成するかけがえのない生き物です。
しかし、今その海や魚に危機的な状況が迫っています。
魚や貝は、陸上の動物と同様に卵を生み繁殖するので、再生する量や速さを考えながら一定の親魚を残して獲れば「持続可能」な形で、その恵みを受けつづけることが出来ます。
しかし、魚を限りある水産資源と認識しないまま、環境破壊につながるような漁業を繰り返せば魚の数はどんどん減ってしまいます。
<目次>
世界と日本の水質資源の現状
養殖業
混獲
ゴーストフィッシング
IUU漁業
魚の資源管理ってなに?
世界で魚の数が再生した?
世界と日本の水産資源の現状
世界の水産物の漁獲量は過去50年で2倍以上に増えてきました。
そして、魚を獲りすぎた結果、1990年以降は海で獲れる魚の数が減り、養殖による生産量が一気に増えました。
国連食糧農業機関(FAO)の発表では、世界の水産資源の3分の1が獲りすぎの状態(乱獲)で、漁獲枠に余裕があるのはわずか10%未満に留まっており、持続可能な水産資源に頼る世界の数千万人の生活を脅かしていると言われています。
これを日本だけで見てみると、なんと2019年の時点で世界の平均を上回る50%が獲りすぎの状態にあります。
しかし、海から魚が姿を消し始めても、国内の魚介類の需要が減ることはありません。
では、海から必要な量の魚介類が獲れなくなったとき日本はどうしたのでしょうか?
答えは、、、
「養殖業」に力を入れ始めたのです。
日本の漁業総生産量は、1984年をピークに減少していき、2020年の時点で約416万トン、世界第8位となっています。そして、そのうち23%を養殖業に頼っています。
でも、実際日本の食卓には依然として豊富な魚が並んでいます。
居酒屋にいっても寿司屋にいってもまだまだ好きなだけ好きな種類の魚が食べられます。
そうするとなんだか安心してしまいますよね。
日常の中で海の魚が減っていることに気付くきっかけはとっても少ないです。
では、漁獲量が下がっているにもかかわらず豊富な魚が食べられるのはなぜでしょうか?
答えは、、、
日本が輸入に頼ってきたからです!
現在、国内で消費されている魚介類のうち、約半分を輸入に頼っています。
ちなみに、日本の水産物の輸入金額は約1.8兆円で、アメリカの約2兆円に次いで世界第2位です(2018年)。
輸入する水産物の割合が増えれば増えるほど輸送に伴うCO2も増えてしまいます。
地球温暖化を防止するためにもそれは避けたいところですよね。
それなら、「輸入に頼らず養殖にもっと力を入れればいいじゃないか!」と思うかも知れません。
しかし、養殖業が環境に悪影響をもたらさない訳ではありません。
養殖業の問題点
突然ですが、養殖のマグロ1キロを育てるのには何キロの餌魚が必要だと思いますか?
答えは、、、
15キロです!
実はほとんどの養殖魚は海で獲れた魚を餌としています。
魚の種類によって異なりますが、平均1キロあたりの魚を養殖するのには海から獲れた魚が6〜7キロ必要になります。
ということは養殖する魚の数が増えれば増えるほど、その餌となるイワシやニシン等の魚の乱獲にまたつながる恐れがあるということです。
餌の問題以外にも、養殖は計画的に生産ができる一方で、養殖場を作るために干潟やマングローブなど沿岸の自然を破壊したり、化学薬品や与えた餌で周りの海を汚してしまうことがあります。
小さな檻で大量生産される魚や貝には農場の牛や鶏と同じように抗生物質やワクチン、消毒剤が使用されます。養殖場から出る排水や廃棄物が、赤潮や青潮の発生要因になり環境汚染を引き起こし、土地や河川、海の環境を変えてしまうことがあるのです。
また、海外から持ち込まれて養殖されていた魚などが、養殖場から逃げて外来種となり、野生種と交配して遺伝子を汚染したり、病害虫をばらまいてしまうこともあります。
では、現在の漁業において解決しなくてはいけない課題は養殖だけなのでしょうか?
そんなことはありません。
ここからは他の課題についても一緒に考えてみましょう。
混獲の問題
この動画は国際環境NGOグリーンピースが公開した動画です。
一見するととても幻想的ですが、これは実はリサイクル漁網のドレスをまとった2人のダンサーが漁網に翻弄される海の生きものの苦しみを表現した動画です。
漁をする際には必ずと言っていいほど目的以外の生物が網や針などの漁具に絡まって命を落としています。これを混獲と呼びます。
では、世界中で捕獲される魚のうち何パーセントがこの混獲の被害に合っているのでしょうか?
答えは、、、
なんと、40%です!
混獲されてしまう生物として魚以外に代表的なのが、海鳥やウミガメ、イルカやクジラです。
毎年約30万羽の海鳥、約25万頭のウミガメ、約30万頭のイルカやクジラが漁の網に絡まり、その多くが商業的に価値のない命とみなされ、捨てられています。
これは遠くの国の出来事だと感じるかもしれませんが、実はそうでもありません。例えば、私たちに馴染みのあるタイやヒラメを取るための刺し網漁、マグロを取るためのはえ縄漁で特に混獲が起こりやすいと言われているのです。
また、サメのように漁獲した後、高く売れるヒレの部分(フカヒレ)のみを切り取って、生きたまま身を海に捨ててしまうという大変残酷な例もあります。日本、米国、EUなど約100ヶ国では禁止されていますが、インドネシアや台湾、中国など一部の国で未だに行われています。
この混獲の問題に対しては、網に特別な「ウミガメ脱出装置」を取り付けることや網にサメの嫌がる匂いをつけることで未然に防ぐこともできますが、まだまだ世界的な普及には至っていません。
ゴーストフィッシングの問題
また、何らかの理由により放置された網や糸などの漁具に野生生物が絡まるゴーストフィッシングも深刻な問題となっています。
その理由とは、海洋廃棄物の処理費用節約のためであったり、漁中に船上のスペースを確保するためであったり、燃料の節約のためであったりします。また、マグロを引き寄せるために漁具を故意に海に投げ捨てるケースや、不慮の事故で漁具が海に流されてしまうこともあります。
現代の漁具の多くはプラスチック製です。海中に放置された漁具は長い間ゴーストフィッシングの原因となるだけでなく、やがてはマイクロプラスチックとなり、世界的な海洋汚染の原因となります。
マイクロプラスチックについての記事はコチラから!
>>前編「海洋プラスチックごみとマイクロプラスチックはどこからくるの?」
>>後編「世界と日本のプラスチックゴミの現状」
こんな悲しい自体を未然に防ぐためには、国が海洋廃棄物の処理費用を安くすることや生分解性のプラスチックを使った漁具に切り替えを図ることが大切です。
IUU漁業の問題
獲りすぎや海の環境破壊を防ぐため、世界では漁業に関するルールが定められています。獲ってもいい魚の量や時期、使ってもいい漁具などに関してのルールです。
このようなルールを守らず行われる漁業のことを、IUU(違法・無報告・無規制)漁業と言います。
IUU漁業は推計で、世界の漁獲量の13~31%を占めていると言われています。
日本単独では重量に換算すると、輸入水産物全体の24~36%を占めているという驚きの調査結果もあります。
これは適切な漁獲を行っている漁業者にとって脅威になっています。
また、IUU漁業は人権問題と切っても切り離せません。
IUU漁業の漁船では、労働者に休憩や食事を十分に与えず、長時間働かせるという事例が見つかっています。また、人を脅かして無理やり漁船に乗せ、身分証を取り上げた上で賃金も払わず働かせる人身売買に近いケースも報告されています。
特に日本は生産・加工・流通・消費からなるサプライチェーンが長く複雑で透明性が足りないため、違法で取られた魚を知らないうちに食べていても気付かない可能性があります。
さて、ここまで養殖、混獲、ゴーストフィッシング、IUU漁業と現代の漁業が抱える課題を一緒に見てきました。思った以上に多くの問題があることに気付かされます。
ここで、やっと持続可能な漁業の話です。
持続可能な漁業とは一体なんなのでしょうか?
そして、それはどうしたら達成することができるか。
水質資源は獲りすぎたりしなければ、数が激減したり絶滅してしまうことなく、自然のサイクルに従い再生産され、その数は維持されます。
持続可能であるということは、海の環境を守りながら漁業や養殖業を行うことによって、そのサイクルが続き、将来の世代も今の世代と同じように海の恵みを受け続けられるということです。
そこで持続可能な漁業において、大切になるのが「資源管理の徹底」です!
魚の資源管理ってなに?
資源管理は資金運用に似ているとも言われます。
例えば、ある海域に100トンのカツオが生息していたとします。そこに1年間のうちに新たに3トンのカツオが親に育って加わってくるなら、年間のカツオ漁獲量を3トン以内に抑える。このサイクルを守っていれば魚の捕りすぎは起こらないので、持続可能な漁獲が実現できます。
通常、世界でも、日本でも、科学者が国や国際会議の場などで、資源の現状や回復力を考え、一定期間内に漁獲してよいその総量(ABClimit)を勧告します。
しかし、この科学者の勧告が、そのまま実際の漁獲可能量(TAC:Total Allowable Catch)として、決定されるわけではありません。
漁業に携わる国際機関や各国政府は、漁業者の短期的な利益を優先するあまり、この勧告を上回る量の漁獲枠を設定してしまうことがあるのです。
また、日本でTACが設定されているのはわずか7魚種19系群のみです。
TACが設定されていない魚種(非TAC魚種)は、今もなお約半数がABClimitを上回る量で漁獲されており、中にはABClimitの3倍以上に達する魚種もあります。
一度壊されてしまった自然のサイクルを元に戻すのは大変なことです。
しかし、世界では激減した魚の数を一定の期間で復活させた事例がいくつかあります。
世界で魚の数が復活した?
何十年もの間、違法な漁業と乱獲によって枯渇してきたベリーズですが、2011年にノーテイクゾーン(漁業禁止区域)を導入した結果、漁獲量が大幅に増え、違法漁業も60%にまで減少しました。2019年4月にはノーテイクゾーンを4.5%から11.6%に拡大し、海洋保護区がほぼ3倍にまで広がりました!
メキシコのラパス沖のカリフォルニア湾でも同じように、ノーテイクゾーンが設定されました。そして、その20年後、魚の数と種類が劇的に回復し世界中のダイバーを魅了し始めます。その結果、多くの漁師は職を変え、今では水中ガイドとして観光業に力を入れるようになり、近郊の沿岸沿いの町のモデルケースにもなっています。
2007年に湾岸の漁師と漁業管理者は、急落していた真鯛の数を復活させようと環境防衛基金(EDF)とタッグを組み、各漁師ごとににそれぞれ獲ってもいい魚の量を割り当て、漁獲高を制限しました。その結果、真鯛の数は地元漁師も驚くスピードで回復しました。
2013年にはモントレーベイ水族館の「回避リスト」から真鯛は削除されたという嬉しいニュースもあります!
バングラディシュ
2019年、バングラデシュ政府は5月20日から7月23日の65日間、沿岸沖一帯でいかなる漁法による漁も一切禁止することを発表しました。漁業が経済と食事の中心的な役割を果たすバングラデシュの国民にとっては大変厳しい政策でしたが、海の資源を保護するために決定されました。
政府は今後毎年、継続的にこの禁止措置を実施すると述べており、2020年にも同じく65日間漁業の禁止令が出されました。漁師にはこの期間、政府より食糧の配給がされます。
こうして世界の事例をみてみると、明確なルールのもと、魚を管理し、回復する時間をしっかり与え、魚のストックや生息地を回復することが持続可能な漁業への第一歩となることがわかります。
しかし、持続可能な漁業とは、資源を危険にさらさない程度に魚介類を漁獲することだけを意味するのではありません。それはまた、違法漁業によって苦しむ人たち、混獲やゴーストフィッシングによって苦しむ海洋生物との悲しい関係に終止符を打つことも含まれます。
今回の記事では「世界と日本の漁業の課題」や「持続可能な漁業とは何か」についてお話ししましたが、後編では持続可能な漁業を応援するために、私たち個人としては何ができるのかについてご紹介します。お楽しみに!!
あなたも環境問題の解決に貢献しませんか?
ひとりひとりが協力して行動を起こせば大きな変化が生まれます。
アクションページでは、
個人として、企業として、団体として、
今日からすぐにでも始められるアクションをご紹介しています。
詳しくはバナーをクリック
【メンバー紹介:長谷川佳苗】
四六時中エコなことを考えている「エコフリーク」なわたしはみなさんが自分のためにも環境のためにも持続可能で健康的なライフスタイルを送るヒントを見つけるお手伝いをできればと思い、当ブログを書かせていただいています。地元名古屋から始まった地球に優しい生活への旅。これまでゴミ拾い、ビーガンピクニック、ヨガ、気候変動に関するプレゼンテーションなどのイベントを企画して、350名以上の方と関わってきました。また、政府に気候変動への取り組みを訴えている国際的な団体Fridays For Future Nagoyaの主要メンバーも務め、元アメリカ副大統領のAl Gore氏主催のClimate Reality Leadership training を受講し気候危機に関する知識も深めてきました。環境問題について話すことが「意識が高いこと」ではなく当たり前になる社会を目指して、オーストラリアから情報を発信していきます!