野生動物レスキューセンターで働いて気付いた、気候危機と野生動物のつながり
mymizu Blog Series「エコへの第一歩 with Kanae」
当シリーズは、mymizuメンバーの長谷川佳苗と一緒に環境問題、そして私たちがすぐにでもできるエコ活動について学び、新しいライフスタイルへの第一歩になることを目標としています!
オーストラリアの田舎道を走っているとカンガルーやウサギ、牛、鳥が車に跳ねられているのをよく発見します。
夜間の運転や前方不注意で犠牲になっている野生動物がたくさんいるのです。
こういった傷ついた動物を、保護し、元気な状態になるまで世話し、野生に返すのが「野生動物レスキューセンター」です。
今日は、実際に私が西オーストラリアの非営利団体 Express Wildlife Rescue & Rehab Animal Rescue で行なったボランティアの様子をお届けします!
まずは、レスキューされたオーストラリア固有の動物たちをご紹介!
オーストラリアといえば、もちろんカンガルー。
この施設では、現在30匹ほどのカンガルーを保護しています。
この子の名前はバブルガム。生まれたばかりの時に母親を亡くし、レスキューされたのでとっても人懐っこくて、私の後をどこでもついてきます。忙しい仕事の合間の癒しです。
そして、フワフワの尻尾が愛らしい、ポッサム。
この子も人馴れしていて、ケージの掃除をしているといつも肩や頭の上に登ってきます。
ネズミを少し大きくしたような、バンディクート。
少し怯えていて、ケージの端っこにいることが多いです。
鳴き声が笑っているように聞こえる、ワライカワセミ。
いつも、こちらに熱い視線を送ってくれます。
私はここで1週間ボランティアとして働いていましたが、主に動物の餌の準備、餌やり、ケージの掃除、健康状態の確認を任されていました。
野生動物レスキューセンターでの1日とは?
朝6時から仕事が始まります。
朝一番の仕事は、安全面の理由から夜のうちに室内に移動させた動物たちを室外に戻すことから始まります。
移動がひと段落したら、動物たちの餌の準備および餌やりとケージの掃除を行います。この施設では、カンガルーの餌やりとその他動物の餌やりの時間が分かれています。
カンガルーへの餌(ミルク)やり、およびケージの掃除はボランティアメンバー全員が一気に行うので、正確な時間が決まっています。それは、7:00、13:00、16:00、21:00の計4回です。
ポッサムとバンディクートの餌やりは、午前中に1回。これは私一人で行います。
鳥類の餌やりとケージの掃除は全て私の担当だったので、カンガルーの餌やりが終わった後、それぞれ6:00、9:30、14:30、17:30、22:30頃の計5回行います。
最後の餌やりが終わるのは夜11時ごろ。
野生動物レスキューセンターでは、1日として同じ日はありません。
新しい野生動物のレスキューに行ったり、施設にいる動物の容態が急変したり、設備のメンテナンスが必要になったりと、色々なことが起きます。
ボランティアの仕事は肉体的にも精神的にもハードで、1日の労働時間は17〜18時間にものぼります。
私はたまたま多くの動物の世話を任されましたが、仕事の内容は人によって違い、1日中掃除と洗濯、餌作りを任されている方もいました。
私が担当していた動物は、11匹のカンガルー、6匹のポッサム、1匹のバンディクート、2匹のワライカワセミ、2匹のアガマグチヨタカ、36匹のハト、10匹のモモイロインコ、2匹のキバタン、7匹のカモ、6匹のニワトリ、11匹のカササギ、2匹のゴシキセイガイインコと1匹のネズミです。
この動物たちの世話を一人で全て任されるようになったのは、ボランティアに来てからたったの2日目。
施設では常に人手が不足しており、十分なトレーニングやオリエンテーションもないまま命に関わる大きな責任を任されます。そのため、個人の器量や能力の差によって、動物の世話の仕方にも差が生まれてしまいます。
そして、レスキューされる動物の中には、弱り切っていて、より細やかな注意が必要な動物もいます。
それを身にしみて感じたのは、鳩の赤ちゃんの容態が急に悪化した、ある朝です。
体はひっくり返り、目も半分しか開いていない状態でした。
よく見てみると、身体中が餌に覆われていて、鼻とお尻の穴に餌が詰まっていて、息ができず、排泄もできなくなっているようでした。
急いでぬるま湯にしばらく浸けて、指で優しく体を洗ってあげると、鼻の通りがよくなりちゃんと排泄もできました。
まるで生まれ変わったかのように、キラキラした目を見せてくれて一安心。
そこから数時間後には朝の状態が嘘かのように、飛び立てるぐらい元気を取り戻してくれました!
本当によかったです。
ボランティアはとても大変な仕事ですが、自分の手で救護した動物が元気を取り戻す姿をみると、疲れも一気に吹き飛びます。
2020年には、合計5,000匹以上の動物を野生に返した実績があるこの野生動物レスキューセンター。
設立者はイギリスから40年前に渡豪したアンドレア・ジェーンさんです。
18歳の時にパートナーと一緒に施設を立ち上げてから、もう38年が経ちますが、動物を野生に返すときが一番嬉しい瞬間だと話してくれました。
傷ついた野生動物を保護し、野生に返す以外にも、大切な役割を果たす野生動物レスキューセンター。
それは一般市民と野生動物をつなぐ架け橋になることです。
この都市化した世界で、いかに人間が野生動物と共存できるかについての教育プログラムを、学校や市民グループ等に対して実施します。
カンガルーは実は害虫?
今、オーストラリアの国民的アイドル、カンガルーが実は害虫扱いされて殺されています。
カンガルーは、オーストラリアにとって観光客を惹きつける国のマスコットとして使われながら、実は公にはあまり報道されず、政府によって密かに“間引き”されています。それは主に都市化のための土地開拓やカンガルー肉を輸出するためです。
この問題は2017年に公開されたドキュメンタリーKangaroo: A Love-Hate Storyで露わにされていますが、過去10年間でなんと3,150万頭のカンガルーが殺されているのです。
また、家畜を飼っている農家では、カンガルーがフェンスを破壊し、羊や牛の食料を奪うなどの理由から、カンガルーを殺すことが正当化されています。
私が実際に働いていた農家でも、作物を荒らすからという理由で毎週のように何匹ものカンガルーが射殺されていました。
しかし、政府や農家は、実際には肉用に大量に飼育されている羊や牛の放牧の方が環境をはるかに破壊している事実に目を向けようとはしません。
>>畜産業が環境にもたらす悪影響については、「ビーガンってなに?地球、動物、身体にも優しい生き方」でもご紹介しています。
これにより、特に残酷な状況に陥るのはカンガルーの赤ちゃんたちです。
母親が殺された赤ん坊は頭をハンターの車両や地面に向かって打ち付けられ、殺されます。運良く逃げられたとしても、母親を亡くした子供はストレスや飢餓から99%の確率で亡くなります。
こういった孤児のカンガルーをレスキューし、独り立ちできるまで世話をし、野生に返しているのが野生動物レスキューセンターです。
アンドレアさんも「まだ救える命がある」と、土地開拓のために食料と水を奪われた野生のカンガルーに餌をやりに、施設の仕事が終わった深夜過ぎから出かけていきます。
彼女の1日の睡眠時間はなんと1時間だけ。こんなに頑張っている彼女を見ると、私も力を貸したくなるのです。
そもそもこの土地に先に住んでいたのはカンガルー。
それを都市化のために彼らの家のど真ん中に道路を作り、そこを横切るカンガルーが邪魔だからと淘汰しようとしています。
私たちの生活が便利になればなるほど、そこに何万年も前から住んでいた野生動物は隅に追いやられ、人間の都合が悪くなったら生物多様性を保つためや土地を豊かに保つため等の理由から、動物の殺害は正当化されます。よくよく考えるとなんとも無茶苦茶な話です。
カンガルーの話はオーストラリア特有の問題と言えますが、日本ではどうでしょうか?
日本にも野生動物レスキューセンターはあるのでしょうか?
あります!
環境省により、野生鳥獣の保護および管理の仕方は定められています。
オーストラリアのように施設の数が多いわけではありませんが、各市区町村が動物病院などと連携して怪我をした野生鳥獣の救護を行なっています。
しかし、受け入れをしているのは一部の野生生物のみです。
〜レスキューの対象外とされている動物〜
・農作物や生活環境に被害を及ぼしている野生生物
(例:シカ、イノシシ、サル、タヌキ、ハクビシン、アナグマ、カラス、ムクドリ、カワウ、トバト、キジバト、ヒヨドリ、スズメ)
・家畜、野良猫犬、ペット
(例:ニワトリ、イヌ、ネコ、フェレット、ウシ、ブタなど)
・外来生物
(例:アライグマ、ヌートリア、フェレット、マングース、アメリカミンクなど)
外来種問題に関しては、外来種そのものに罪があるわけではなく、それを故意であれ無意識であれ、持ち込んでしまった人間に問題があります。
そして、それは多くの場合、個人レベルで未然に防ぐことができます。外来種の多くはペットとして輸入されています。
ペットを手にいれる前に、「どのくらい大きくなるのか?」、「何年生きるのか?」、「将来どう猛にならないか?」などを調べ、死ぬまで面倒を見ることができるのか判断することが、駆除される外来生物を減らすことに繋がります。
例えば、ペットとして多く輸入されていたアライグマは、幼獣のころはかわいいですが、成獣になると気が荒くなって飼いづらくなり、捨てられてしまうケースが多いのです。
オーストラリアでは、保護する野生動物が一気に増える時期があります。それはいつでしょうか?
夏の、山火事の時期です。
2019年12月から2020年2月にかけて発生した、オーストラリア過去最大規模の山火事は、およそ韓国と同じぐらいの面積である1900万ヘクタールの森林を焼き払い、33人の命を奪い、30億近くの動物に被害を及ぼしました。
この山火事の規模を決定づけるのは、木や草の乾燥度、風の強さ、湿度の高さ、気温など様々です。
では、山火事の影響をより拡大させているのは?
それは地球温暖化による気候危機です。
気温が上がれば、干ばつが続き、火災の燃料となる枯れ木や低木が日照りによって増加します。そして、乾いた木はできるだけ水を吸収しようと根を深く生やすため、土壌がさらに乾燥します。また、温暖化により、火災の引き金となる落雷も発生しやすくなるのです。
こうして、森林が燃えると、木と土壌に蓄積された二酸化炭素が放出され、地球温暖化が悪化するという負のサイクルに陥っています。
勢力を増す山火事は、レスキューされた野生動物を野生に返すタイミングにも弊害をもたらしています。
例えば、カンガルーは15kg(3歳前後)になると野生に返すことができます。私がボランティアをしている間にも、3匹のカンガルーを野生に返す計画でしたが、その区域で山火事が発生したため延期せざるを得なくなりました。
これは何もオーストラリアに限った話ではなく、世界的な現象です。
記憶に新しいカリフォルニア州の大規模な山火事以外にも、アラスカ、シベリア、中国南西部、インドネシア、ウクライナ、ブラジルのアマゾンなどでも毎年起きてる山火事は、その規模を増しています。
ちなみに、ブラジルのアマゾンの山火事については、少し話が違って、農業開発のために人為的に引き起こされています。人間の食生活がいかに環境に影響を及ぼしているのかを突きつけられます。
では、日本にはどういった影響があるのでしょうか?
他国と比べると山火事は少ないかもしれませんが、近年増えている大型の台風や集中豪雨は気候危機により確実に悪化しています。
また、年々猛暑日が増す日本では、熱中症により毎年1,000人以上が死亡し、6万人以上が病院に搬送されており、その人数は増える一方です。
少し意外に思うかもしれませんが、熱ストレスにより、米、とうもろこし、大豆の作物収穫量も減少し始めています。実際、日本では80%以上の県でコメの収穫量が減少しています。
気候危機による地球環境への影響は計り知れませんが、それは野生動物の絶滅にもつながっています。
国際自然保護連合(IUCN)によると、世界の霊長類種のほぼ50%が絶滅の危機に瀕していると推定されています。
その原因は、気候危機による野生動物の生息地の喪失、畜産業による森林伐採、肉や毛皮目的の野生動物の密漁、魚の乱獲、都市化のための土地開拓、プラスチックごみ問題など、挙げ出したらきりがありません。
魚の乱獲についての記事はコチラから!
>>前編「持続可能な漁業ってなに?世界と日本の海の現状」
>>後編「持続可能な漁業を応援する9のコツ」
プラスチックごみ問題についての記事はコチラから!
>>前編「海洋プラスチックごみとマイクロプラスチックはどこからくるの?」
>>後編「世界と日本のプラスチックゴミの現状」
>>「リサイクルはゴミ問題の解決策にならない?明日からできる、リサイクル以外の3つの解決策」
ただ一つ言えることは、私たちの生活が便利になればなるほど、私たちの知らないところで、犠牲になっている野生動物や自然環境が増えているということです。
正直なところ、「野生動物レスキューセンターでボランティアしよう!」と決めた時は、ただ可愛い動物たちと触れ合いたいという軽い気持ちからでした。
でも、オーナーのアンドレアさんや他のベテランボランティアさん達と話をすればするほど、野生動物と都市化そして気候危機が深く結びついていることを実感せざるを得ませんでした。
日本にいると住む場所によっては、傷ついた野生動物に出会うことは稀かもしれませんが、森林伐採を止めるために肉を食べる量を減らすことや、革製品を避けることや、美しい海を守るために魚を食べる量を減らすことや、使い捨てプラスチックを減らすことが、回り回って野生動物を守ることに繋がります。
プラスチックフリーな生活についての記事はコチラから!
こんなに可愛い動物達を守るために、今日から少しずつ日々の行動を見直してみませんか?
あなたも環境問題の解決に貢献しませんか?
ひとりひとりが協力して行動を起こせば大きな変化が生まれます。
アクションページでは、
個人として、企業として、団体として、
今日からすぐにでも始められるアクションをご紹介しています。
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【メンバー紹介:長谷川佳苗】
四六時中エコなことを考えている「エコフリーク」なわたしはみなさんが自分のためにも環境のためにも持続可能で健康的なライフスタイルを送るヒントを見つけるお手伝いをできればと思い、当ブログを書かせていただいています。地元名古屋から始まった地球に優しい生活への旅。これまでゴミ拾い、ビーガンピクニック、ヨガ、気候変動に関するプレゼンテーションなどのイベントを企画して、350名以上の方と関わってきました。また、政府に気候変動への取り組みを訴えている国際的な団体Fridays For Future Nagoyaの主要メンバーも務め、元アメリカ副大統領のAl Gore氏主催のClimate Reality Leadership training を受講し気候危機に関する知識も深めてきました。環境問題について話すことが「意識が高いこと」ではなく当たり前になる社会を目指して、オーストラリアから情報を発信していきます!