新しい法律「プラスチック資源循環促進法」ってなに?どの業種にどう影響するか
今、みなさんの周りにプラスチックで出来たものは見当たりますか?
きっと多くの方が、様々な形でプラスチックが使われているのを目にするかと思います。そんな便利で身近な素材であるプラスチックですが、その製造過程や廃棄後の焼却処分において二酸化炭素を排出することで気候変動に拍車をかけるなど、環境の側面では課題点を抱えています*。
このまま、プラスチックを使っては捨てるという流れを続けると、環境が破壊され私たちの生活にも影響がおよびます。そこで、より合理的なプラスチックの使用を促進するため、2022年4月から新たな法律が施行されます。
それは、プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(以下、プラスチック資源循環促進法)です。この法律では、プラスチック製品の製造や利用において、事業者や消費者、国、都道府県、市町村に対して要請をおこなうものです。
それでは、この新たな法律は誰にどんな対応を求めているのでしょうか?
今回の記事では、特に対応が求められている飲食業や宿泊業などの事業者に焦点を当てて、お伝えします!
*経済産業省 資源エネルギー庁(2022)カーボンニュートラルで環境にやさしいプラスチックを目指して(前編)https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/plastics_01.html
目次
・プラスチック資源循環促進法で対象となる製品は?
・脱プラをすでに実践しているホテルとカフェ!
・取り組み不十分による罰則は...?
・消費者や自治体には何が求められるのか?
・なぜリサイクルでは解決されないのか?
プラスチック資源循環促進法で対象となる製品は?
環境省が公開しているガイドライン*によると、今回の法律では「特定プラスチック」というものが定められています。これらは、法律において何らかの対応が必要とされる品目なのです。
その特定プラスチックというのは、図1に示す12品目です。
ただし、これらの使用が禁止されるわけではありません。
上記12品目が現在無償で提供されている場合、新たな対応が必要とされます。
無償提供の例として、カフェで飲み物をオーダーした際に、ストローがついてくることがありますよね。多くの場合、ストローは無料でもらえますし、お客さんがストローをそもそも必要とするか、店側が確認するということも珍しいかと思います。
またコロナ禍において、テイクアウトを利用する機会が増えた方も多いのではないでしょうか。商品の容器とは別に、フォークやスプーンがついてくることがあります。これも、特定プラスチック製品の無償提供に含まれます。
このような事例は、今後削減されることが求められているのです。では、これをどのように変えることが求められるのでしょうか?特定プラスチック製品を提供する際には、法律が呈示する対応策から選択する必要があります。それが、以下の4つです。
①特定プラスチック製品の有償化
ホテルのアメニティやテイクアウト時のスプーンなどは、追加の料金を支払った場合にのみ提供されることになります。
無料で提供されることにより、私たちはプラスチック資源を無意識のうちに多量に消費してしまいます。プラスチック製のレジ袋と同様に、有料にすることにより、本当に必要としている人にのみ提供することが可能になるのです。
②特定プラスチック製品を使用しないよう特典等を提供
これは、特定プラスチック製品を使用しないほうが、より良い結果や待遇に繋がるように誘引する施策を打つ必要があるということです。
例えば、あるお店が購入金額に応じてポイントを付与している場合、プラスチック製のアメニティやスプーン、フォークなどを使用しなかったお客さんに対して追加でポイントをつけるなどの工夫が挙げられます!
③特定プラスチック製品使用についての意思確認
具体的には、「ストローは必要ですか?」「アメニティは利用されますか?」などお客さんに事前に聞くことが必要とされます。
つまり、必要としていない人には提供しないということ。あらかじめ意思を確認しておくことで、必要ないのにあるからなんとなく使ってしまうという状況や未使用なのに捨ててゴミになるという資源の無駄を無くすことができます。
④特定プラスチック製品の繰り返し使用を促す
ひとつの製品を長く使用することは、今ある資源を有効に活用し、新たな資源を消費することの抑制に繋がります。スプーンやストローでは難しく思われますが、衣類用ハンガーなどは繰り返し使用する際のイメージがつきやすいかもしれませんね!
*経済産業省, 環境省(2022)「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律について」https://plastic-circulation.env.go.jp/wp-content/themes/plastic/assets/pdf/pamphlet.pdf
脱プラをすでに実践しているホテルとカフェ!
mymizuの給水パートナー(マイボトルさえ持っていれば無料で給水できる場所)の中には、こうしたプラスチック資源に関して一足はやくアクションを起こしている企業やお店もあります。
コンフォートホテルなどを運営する株式会社グリーンズでは、2019年9月から無料コーヒーサービス用のマドラーや朝食のドリンクコーナーにあるストローなどをプラスチック製から紙製に変更しました。さらに、客室アメニティのうちカミソリとヘアブラシはロビー等の専用スペースに設置し、必要なお客さまのみが取っていく仕組みを採用しています。
これらの取り組みを積極的に実践されてきた背景として、社内に設置された環境配慮委員会が 「エネルギーと資源利用の最適化」と「環境や社会に配慮した調達」に注力してきたことがあります。この2つのテーマに従い、まずは自分たちにできることから1つ1つ取り組むことが重要だと捉えて様々な活動を進めてきたそうです。
このようにプラスチックを含む廃棄物の削減に取り組んでいたことから、給水サービスを通してプラスチック使用を削減できるmymizuの活動に関心を寄せてくださいました。そして2021年、株式会社グリーンズが運営するすべてのホテルを給水パートナーとして登録してくださいました。様々な地域に展開されるホテルを登録いただいたことで、プラスチック削減の機会が広がっています!この全国展開というネットワークの広さを活用し、旅行客だけでなく地域のまちづくりにも給水を通して貢献していきたいと考えているそうです。
旅行客にとっては、ペットボトルを購入しなくてもマイボトルに給水することができるため、旅先での荷物を増やさずに旅行を楽しむことができます。そして地域の人にも、散歩の帰りに給水に立ち寄るなど日常の中で活用してもらうことで、地域との繋がりを持つことができますね。
さらに、こうした様々な環境や社会に配慮した取り組みを通じて、国内外の社会課題を学ぶ機会が得られ、従業員の方々の環境に対する意識が向上したと感じていらっしゃるそうです。社内と社外の両方向に、前向きな変化が広がっているように感じられました。
もうひとつ、素敵な取り組みをしているお店をご紹介します!
長野県白馬村のスキー場内にある自然派喫茶solでは、プラスチックではなくステンレス製のストローを提供し、店舗で使用するプラスチックの削減に取り組んでいます。2019年12月にお店をオープンさせるにあたり、「持続可能なライフスタイルの提案」というコンセプトに沿ってメニューなどを決めていたので、ステンレスストローの導入は自然な流れだったそうです。
さらに、テイクアウトで使用するものもすべてプラスチックフリー。カップの蓋は紙製のものを使用し、プラスチックの袋に包まれた割り箸やおしぼりも一切提供していません。店長の加藤ソフィーさんは、「紙だからいい、とは決して思っていないので、必要な方が必要な分だけ使って頂けるように、蓋はいるのかどうかと聞いてみたり、忙しい時は必要な方だけご自身で付けて頂くスタイルにしています」と話していました。また、マイカップの持参を推奨しており、テイクアウトカップにはプラス10円、テイクアウトの紙のお弁当箱にもプラス20円と、工夫がされています。
「ごみの問題や環境の問題は誰かがやればいい、というものではなく、私たち個人の行動にかかっていると常々思っています」と話す加藤さん。少しでもペットボトルのゴミが減ればという想い、そして1人1人の行動を後押しするようなmymizuのプラットフォームを気に入ってくださり、給水パートナーとして登録してくださりました。
しかしお客さんと接する中で、現状としてまだまだ給水するという習慣が浸透していないと感じることも多いそうです。
「スキー場内にあるため、なかなかマイボトルを持ち歩くのは難しい環境ではありますが、マイボトルに水を入れるということは、とても単純に見えて、現代人にはまだまだハードルの高いことのように思います。そこらじゅうにコンビニや自動販売機がある日々の生活で、ついついペットボトルに入った水を買ってしまいがちな方も多いと感じます。
ごみの問題というのは、自治体や企業が担う部分も大きいですが、個人個人の行動もまたとても大事であり、問題解決に向けて実感も持ちやすいものではないかと。個人の行動をサポートできるようなmymizuプラットフォームに参加させて頂けるのをとても嬉しく思います。」
実は、加藤さんはカフェを経営する傍ら、白馬村の議員としても活躍されています!加藤さんは、今回の新法についてどのように考えているのでしょうか?
「行政ができることの一つが、法律を整備することです。プラスチック製レジ袋の時もそうでしたが、普段環境問題などに興味のない人や企業の方たちを巻き込むためにも法律で規制していくということはこれから必要不可欠、そして行政の責務です。なんでもかんでも規制するのは良くないですが、特にごみの問題などは規制に踏み切ることが解決への一歩であることは間違いないと思っています。
この新法をきっかけにしてごみ問題を少しでも考えるきっかけになればいいなと思うのと、モノを使い捨てるということが当たり前な時代から、資源には限りがあると皆が認識し、出来るだけ捨てずに使いまわせる時代に移っていく1つのステップになることを期待します。」
このように自然派喫茶solでは、できる限りゴミを減らす方法を実践しています。解決への一歩目として新たな法律ができた今、私たち1人1人の行動が影響力を持っていると捉えて、二歩目、三歩目となる行動を起こしていくことが大切なのではないかと感じました。
取り組み不十分による罰則は...?
新しい法律が施行されると聞くと「何をしたら違法なの?」と心配になる方もいるかもしれません。
環境省の公開するガイドラインでは、「特定プラスチック使用製品の提供量の多寡を問わず、全ての特定プラスチック使用製品提供事業者が本制度の対象」と示しているため、中小規模の事業者も含め多くの人の協力を求めています。
そのうえで、「特定プラスチック使用製品多量提供事業者は、使用の合理化の取組が判断基準に照らして著しく不十分と認められる場合に、勧告・公表・命令・罰則の対象」になるとしています。
特定プラスチック使用製品多量提供事業者とは、「前年度における特定プラスチック使用製品の提供量が5トン以上」である事業者を指します。
大きな企業であるほど、使用する資源も廃棄される量も多くなりやすいため、相対的に強い規制がかけられているようです。社会への大きな影響力を持つ立場であるからこそ、環境にも配慮した取り組みをおこなう責任がより強く求められていると言えますね。
他の事業者や消費者、自治体には何が求められるのか?
この新たな法律ではプラスチック製品を提供する事業者以外にも、製造・販売事業者に対して自主回収と再資源化が求められています。
さらに、消費者、国、市区町村や都道府県にも積極的な取り組みが求められています。
消費者に対しては、プラスチック使用製品の廃棄抑制や正しい分別をおこなうことなどが求められます。私たちの消費行動やごみの分別が、環境への影響に繋がっているからです。
国や自治体に対しては、プラスチック資源の循環を促進する役割を担うことが期待されています。とりわけ市区町村には、家庭から排出されるプラスチック使用製品廃棄物を分別収集することが求められています。
なぜリサイクルでは解決されないのか?
「廃棄量が多くても、リサイクルされれば良いのでは?」と感じる方もいるかもしれません。たしかに、捨ててしまうよりはリサイクルするほうが資源を有効に活用できます。では、日本において廃棄されたプラスチック製品のうち、どれくらいの割合がリサイクルされていると思いますか?
一般社団法人プラスチック循環利用協会によると、2020年には、廃棄されたプラスチックのうち86%(約710万t)がリサイクルされたと発表されています*。しかしその内訳は、以下に示すように、マテリアルリサイクル(再生利用)は21%、ケミカルリサイクルが3%、焼却時の熱エネルギーを回収するサーマルリサイクルが63%となっています。
有効利用廃プラの大部分を占めるサーマルリサイクルでは、廃棄されたプラスチックを焼却するのですが、その際にも二酸化炭素は発生しています³。つまり、リサイクルをするにも環境に負担がかかっており、多くのエネルギーも必要とします。そのためリサイクルは、環境を守るという観点から考えると、最善の解決策とは言いがたいのが現状です。
したがって、持続可能な方法で資源を利用し環境への負荷を軽減するためには、やはり私たちがプラスチックの使用を減らす必要があるのです。もしくは、現在身の回りにあるプラスチック製品を使い捨てにせず、長く使い続けることが重要です。
* 一般社団法人プラスチック循環利用協会(2021)「2020年 プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況 マテリアルフロー図」https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf2.pdf
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【ライター紹介:NATSUKI】
社会課題を解決することについて何でも興味が湧いてしまう大学生。お気に入りの時間は、近所の河川敷で一人でぼーっとしているとき。そんな環境で育ったため、都会で一人暮らしを始めてから、身近に自然に触れることができるありがたさに気付きました。「給水からはじまるストーリー」を通じて、給水パートナーの想いを広めて、人にも地球にもやさしい輪が広がることを願っています。