Allbirds : 競争から共創へ。気候変動に立ち向かうシューズブランドの新しいビジネスのあり方。
mymizu Blog Series「給水からはじまるストーリー」
当シリーズではmymizuの給水パートナーの方々をご紹介しています。どんなお店や人が、何をきっかけに、どんな想いを持って給水パートナーになってサステナビリティに取り組んでいるのでしょうか。新たな発見を見つけに行きましょう!
Allbirds(オールバーズ)は、快適な履き心地と自然環境への配慮を追求したシューズを提供するブランド。
シューズにはメリノウール、ユーカリの木、サトウキビなど自然から生まれたものが使用され、それぞれの素材を調達する過程においては土地や動物への影響が考慮されています。こうした素材から生まれるシューズは、ユーカリの優れた通気性やメリノウールの肌ざわりの良さによって、快適な履き心地も備えています。
世界一と称される履き心地のシューズを生んだAllbirdsは、日本においてどんなメッセージを、どのように届け、その想いを共有する仲間の輪を広げているのでしょうか。
Allbirdsのマーケティングを担当されている蓑輪光浩さんにお話を伺いました。
目次
● 社会を良くしたい想いと可能性を秘めた靴
● 鍵となるのは、正しいタイミングで正しいメッセージを発信すること
● コミュニティの起点としての店舗
● 社会を変える仲間となるプレーヤーを増やす
● Allbirdsが大切にする “ 人との関わり ”
社会を良くしたい想いと可能性を秘めた靴
蓑輪さんはNIKEやユニクロで、アスリートのパフォーマンスを向上させるシューズやアパレルの開発やマーケティングを担当されていました。しかし2019年頃に、時代の潮目が変わってきたと感じたそうです。
「当時ビル&メリンダ・ゲイツ財団で働いていたのですが、SDGsが国連から生まれ、グレタさんがきっかけになって若者のムーブメントが起きるなかで、世の中をより良くしたいなという気持ちが段々と年を重ねるごとに出てきてね。そこで、どうやって社会を良くすべきか、どうやって政治と経済がリンクしてるのか、みたいな所を学び始めました。
ただ、ジレンマもすごくあったんです。スポーツやファッション業界は、来シーズンは何をするか、どんなものをどのぐらいの量を作るかとか、シーズンごとに動いてます。すごくスピードが速いんですよ。だけど、政治の世界はすごく遅い。その次の年の予算を取って、次の年に実行して、また予算を取るという年単位。
そのスピード感がどうしても僕に合わなくて、そうしたらAllbirdsが日本上陸するって話を聞いた。スポーツとSDGsの文脈が両立してる思想が、自分のキャリアとすごく近いなっていう印象があったんです。」
実際にモノを履いてみなくてはブランドのことが分からないだろうと考えた蓑輪さんは、Allbirdsのシューズを履いてとても驚いたそうです。
「シューズを履いてみたら、すごい良いフィット感で。スリッパ履いたような感じだし、とても軽くて包み込む感じ。その頃はブランドが設立して3年目のときだったんで、3年でこのシューズを作れるんだったら、10年、20年かけたら世代を代表する靴ができるんじゃないかなと思った。
例えばナイキで言うとエアフォースワンとか、アディダスのスタンスミス、コンバースのオールスターとか、皆が何気なく履いている、生活の一部になっているスニーカーがあるじゃないですか。そういう新しい世代のシューズを作ることができるんじゃないかなと思って、Allbirdsに入社しました。」
鍵となるのは、正しいタイミングで正しいメッセージを発信すること
Allbirdsが日本に上陸したのは、2020年のこと。その頃、日本ではそこまで環境配慮に関する意識がまだ高まっていませんでした。
「当時はSDGsの理解や認知度がすごく低かったと思うんですよね。学生の多くは知ってたけど、社会に出ると特にそういう教育はなく、おじさんが胸につけているバッジみたいな印象。
サステナビリティを強く押し出したところで、まだ社会がついてきてないと思っていたのですが、オリンピックが始まる手前ぐらいから徐々に日本の人たちが世界を見始めた。コロナになってから余計にね。イタリアのベニスの川が綺麗になったように、自然を人間がいかに汚していたか分かる出来事が色んなところで出てきた。
菅前首相がカーボンニュートラル宣言をしてから、社会の中核にいる人だけでなく、多くの人たちが『社会に対して良いことをしないと、経済が持続しない』と考えはじめた。社会に良い事業でないと理解を得られない。特に外資系では顕著でした。そんな中で、Allbirdsはしっかりサステナビリティを真正面に捉えてます、というメッセージをコミュニケーションの中で加速させることができた。
2020年1月に原宿店ができた時は、シリコンバレーやハリウッドで支持されている、サステナブルでとても快適なシューズが日本上陸という文脈が強かった。はじめはそのきっかけで良いんだけれど、そこから段々と、靴が洗濯できるから長く使えてサステナブルな使い方ができるとか、環境負荷を抑えた植物性由来の様々な商品を作っている地球に優しいプロダクトとかを押し出して伝えていきました。」
Allbirdsが日本へ上陸した2020年、サステナビリティへの関心が大きく向上したことが分かりました。こうした流れを振り返り、蓑輪さんは、2020年1月というタイミングでの日本上陸がとても重要であったと話されます。
「もし2022年にAllbirdsが上陸していたら、遅い。でも2020年の1月の時点ではとても早いアプローチだったので、(サステナブルな取り組みの)事例の一つになりやすい。なので、タイミングはすごく大事だと思う。
マーケティングとしても、やっぱり社会の流れと上手く沿ってなくてはいけないし、関心がない人に話してもしょうがないじゃないですか。でも、段々みんな社会の関心が高まってきたときに話しかけると、気づきがアクションになる。」
Allbirdsのファンになってくれる人は、環境問題に関心がある人だけではないようです。シンプルなデザインに惹かれる人や、快適な履き心地が気に入っている人もいます。蓑輪さんは、Allbirdsを起点に周りの人たちから、少しずつ輪を広げることが、最終的に効率の良いコミュニティの広げ方だと話していました。
そのために、どんな世代にもわかりやすいメッセージを届けることを大切にしているそうです。そこには、どんな工夫がされているのでしょうか。
「ホームページなどで『地球が滅びるかもしれません』という表現も使うけれど、やっぱりその後に『ちょっと強烈な言葉でしたけど、実はそうなんです』みたいな、一度転換するような部分をつくったりします。
Allbirdsは、仙人みたいな生活をしている人たちに買っていただきたいわけじゃなくて、これから新しい社会を一緒に作っていきたいと思っている若い世代であったり、それをサポートしてくれている親御さんの世代、おじいちゃんの世代も巻き込んでいきたい。中心になるのは若い世代の人たちだけど、やっぱりこの複雑な気候変動の問題やサステナビリティの課題を、複雑に言うんじゃなくて分かりやすく伝えたいと思っている。まだ間に合うと思ってるし、諦めたら終わり。」
危機が迫っている事実を伝えつつも、危機感をあおるのではなく、まだ間に合うという前向きな姿勢を持って周りの人を巻き込んでいくことが大切なのですね。
コミュニティの起点としての店舗
Allbirdsの原宿店そして丸の内店、どちらもmymizuの給水パートナー(マイボトルさえ持っていれば無料で給水できる場所)としてご登録いただいています。
実は、現在mymizuに勤めているジュリが、以前はAllbirdsで働いていました。ジュリを通じてお店のスタッフの皆さんにもmymizuが行う様々なアクションを聞いていただき、社内でmymizuの理解を広めて下地が出来たことが、給水パートナーの登録に繋がりました。
「給水させていただくことによってそのお店がコミュニティの起点になるし、やっぱり素晴らしいサービスだと思う。セットアップする必要もあまりない。なぜなら元々スタッフが水を飲んでるからね。人として、ブランドとして、当たり前のサービスだと思う。
mymizuの人たち皆若くて情熱的だから、何か応援したいという気持ちにさせてくれました。」
社会を変える仲間となるプレーヤーを増やす
Allbirdsではサトウキビで作られたソール部分の素材をオープンソースとして一般に公開しています。これにより他企業もその素材や製造方法を活用することができます。環境に優しい素材の利用を広めることは、気候変動へのアプローチとして有効な一方、Allbirdsの経営に影響はないのでしょうか。
「小規模なAllbirdsが新しい素材を開発したところで、スケールアップしない。これをオープンソースにして色んな企業が使っていただくことによって、研究が進み、需要も増えて、そうすると必然的にコストが下がってきたりとか、もっともっと簡単に作れるようになってきたりとかするじゃないですか。大手自動車メーカーがハイブリット車に関して特許を公開したという話もあったように、1社の力だけじゃ大きい社会課題を解決することができないとみんなが気付き始めたんじゃないかと思う。」
Allbirdsがオープンにしているのは素材だけではありません。商品の素材調達、製造、輸送、使用、廃棄に至るまでの過程で発生するCO2(二酸化炭素)の量を計測し、その計測方法を公開しています。このように製造から廃棄に伴う温室効果ガスの排出量をCO2に換算した数値は、カーボンフットプリントと呼ばれます。Allbirdsのすべての商品は、1つ1つカーボンフットプリントが計測されており、誰でも簡単にファッションの環境負荷を確認することができます。
こうして可視化することは負荷を減らすためのスタートラインになる、と蓑輪さんは考えていらっしゃいます。
「ダイエットと一緒で、基準値を測らないと減らせないのです。プロダクトの素材とか製造時の工場で使用するエネルギーとか、洗濯するときの電力とか。残念ながら今、シューズはそのまま土に埋めても土に戻らないので、結局焼却したり埋めたりしなきゃいけない。その負荷を計測していきます。
そのシューズのカーボンフットプリントが10だとしたら、その次の靴をアップデートする時に11になるわけにはいかないじゃないですか。やっぱり9台を目指さなきゃいけない。これは計測しないと分からないですよね。」
この可視化を社会に示すことによって、他の企業による自然由来の素材やカーボンフットプリント計測の導入や、新たな気付きに繋がることが期待されています。その一例が、Allbirdsとアディダスのコラボレーションです。2021年5月にリリースされた商品では、カーボンフットプリントが1足あたりわずか2.94kg。これは両社にとって史上最も低い数値となりました。
このような外部とのパートナーシップについて、蓑輪さんは社会をより良くするために大切なものであると捉えています。
「社会をどうやって良くしようかっていうときに、個人だったり、企業や団体だったり、国だったりが単独で旗を振っていても変わらない、みんなで力を合わせるのが大切なんだと思います。そして、人の温もりみたいなものが大切。
アディダスとAllbirdsが組んだのをみて、他の方々も、競合のあり方に気づきが生まれると思うんです。(気候変動に立ち向かうという大きな目標に向けて)積極的にパートナーシップを結んだ方がいいと思ってます。」
Allbirdsが大切にする “人との関わり”
2021年にNASDAQ株式上場を果たしたAllbirds。これはAllbirdsという企業にとって、どのような意味を持つのでしょうか。
「パブリックカンパニーになることで、より説明責任を果たす必要が出てきます。財務の状況だけじゃなくて、今までどんな実績を持って、これからどういう展開をしていくかというのを透明性を持って発表しなくてはいけない。それから、応援してくれる株主の方々から集まった資金が、ビジネスをサステナブルにするために、成長のための投資ができます。なので、必然的に今よりサイズが大きくなってくると思います。
ただ、株主の利益を重視した従来の形ではなく、社会に対してどうやって便益を与えられるかを考えている企業なので、自分が大切にしている地球や環境を少しでも良くしたいと思って、Allbirdsの株主になっていただくのだと思ってます。多くの人がこの会社を支えてくれるんだっていうのをすごく感じることができます。」
さらに、Allbirdsが運営するランニングコミュニティでも、人と人の支え合いや繋がりが生まれています。
「Allbirdsの店舗スタッフには、周りの人たちとか地域のコミュニティの人たちと連携して欲しいって話をしている。お店が暇なときには、ぷらっと街の中へ出て、面白そうなところがあったら『ランニングのコミュニティ作ってるんで、もしよかったら一緒に走りませんか』みたいなことを言うと、結構気軽に『じゃあ行きます!』と言ってもらえる。
1人で走るとすごい辛いけど、5人10人で走ると頑張れたりするじゃないですか。そこでお客さんだったり、近隣の人たちと会話が生まれてくると思う。」
このようにAllbirdsは単なるシューズブランドではなく、シューズやアパレルを通して人々と共に新しい文化を創る役割をも担っているように感じられます。Allbirdsで大切にされている人や社会との関わり方は、一体どのようなものなのでしょうか。
「コミュニケーションするにあたって大事なのは、会話のきっかけを作っていくことじゃないかなと思っています。それは、何か気づきを与えたり、Allbirdsのレポートを読んで食卓で話してくれたり、ソーシャルメディアで取り上げてくれたりするように、みんなのフックになるようなことを作っていって、友達や会社、家族との会話になっていって、それがアクションになっていくんじゃないかと思います。」
Allbirds
原宿店:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-14-34原宿神宮の森ビル1階
丸の内店:〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-4-1新国際ビル1階 105区
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<編者後記>
蓑輪さんへのインタビューを通じて、自然環境への“配慮”ではなく、気候変動を“逆転させる”という明確に変化を求める姿勢と、靴を通じて関わることができる身近さによって、より多くの人が惹きつけられ、そのパワーがAllbirdsにとってエンジンになってるのだと感じました。
さらに、その挑戦を現実にするために素材の開発やオープンイノベーションを支える環境の整備が進むことで、実際に社会を良い方向へ変化させていることが実感できるのだと思います。
Allbirdsは、「競争」による成長から、「共創」による成長へと変化する先駆けとなっています。社会や環境に良い影響を与える生活へ変わるきっかけは、身の回りのモノや小さなコトの中にあるのかもしれません。
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【ライター紹介:NATSUKI】
社会課題を解決することについて何でも興味が湧いてしまう大学3年生。お気に入りの時間は、近所の河川敷で一人でぼーっとしているとき。そんな環境で育ったため、都会で一人暮らしを始めてから、身近に自然に触れることができるありがたさに気付きました。「給水からはじまるストーリー」を通じて、給水パートナーの想いを広めて、人にも地球にもやさしい輪が広がることを願っています。